天は思ったよりも一人きりが嫌いな猫だった。コロナ禍を経て飼い主が在宅勤務をベースに仕事をするようになり、人間がいることが当たり前の生活に慣れてしまったからなのか、人間が出かける準備をすると途端に不貞腐れた顔をするようになった。それだけならまだしも、人間が帰ってくるまで一人で身を固くして、置いてあるご飯も食べず、トイレもせず、じっと待ち続けるようになった。そんな天の様子を見て、どうにかしないといけないと頭を悩ませるようになった私と夫は、ペットショップの店員さんから「この子はどんな子とも仲良くなれるから他頭飼い向きだと思う」と言われていたことをふと思い出したのだった。
多頭飼いを意識し始めても、いざとなるとどうするか悩むことばかりだった。体重が7キロを超えるメインクーンの天が、通常サイズの猫と暮らすようになった場合、天は戯れているつもりでも怪我をさせることにならないか、そもそも男の子と女の子のどちらがいいのか、今度こそ保護猫という選択をするのか。なかなか踏ん切りもつかないまま、家を開ける時間を最小限にするように意識していたある日、突然出会ったのが晴だった。
夫のダイエット目的で二人で通っていたジム帰り、しっかりと痛めつけられた筋肉をなんとか前に前にと動かしながら、天と出会ったペットショップに猫砂を買いに行った時のこと。天を我が家に迎え入れる時に担当してくださった店員さんに「ちょっとそこに座って待っていてください!」と声をかけられ、夫と二人で店内のベンチにちょこんと座っていたら、気がついたら腕の中に小さな小さな猫がいた。「天ちゃんと同じところからやってきたメインクーンの子猫です!」と、ニコニコしながら店員さんが言った。
話を聞くと、ちょうどお店に来たばかりの子だそう。「多頭飼いも憧れる」、「いつかは天の兄弟がやってきたらいいな、とは思っている」なんて立ち話もしたけれど、まさか覚えていてくれたなんて。
天が我が家にきた時に比べて随分と小さい体をしたその子は、天と同じように白い靴下を両足に履いて、天と同じ毛色をしながら、私の腕の中で、青い目を瞬きながら私の目をじっと見つめている。
猫がきてから作戦会議の回数が増えた。その内容は病院に連れて行くかどうか、お互いの今後の推し活によるスケジュールのことなどがメインだったが、今回の作戦会議は大ごとだ。
私も、夫も小さな命を腕の中でしっかりと感じたあと、猫砂を買い、夢見心地のまま帰宅した。そのままダイニングテーブルに並んで座り、どうするかを話し合う。
何も知らない天は、人間が帰ってきたことを素直に喜び、残っていたカリカリを貪り、トイレを済ませてくつろいでいる。どうやら今日も、私たちが出かけていた間はご飯も食べず、トイレもせずにいたらしい。
二人の話し合いは深夜まで続いた。天は二人が話す音を子守唄に、お気に入りのベッドでひと足先に寝ている。守るべき命が増えると言うことは、その分責任も増えると言うこと。二匹の一生を本当に自分たちが守れるのか。何不自由ない生活を二匹になっても与え続けられるのか。
でも一番悩んだのが、「この選択が天にどう影響するか」だった。常に人間といたい天がもう一匹猫が増えることによって、甘えたい気持ちを我慢するようになってしまったら。二匹の相性がどうしてもよくなかったら。天の安心し切った寝顔を見ながら、なかなか答えが出せない。
結論を話そう。お迎えをすることに決めた。人間が四六時中家に居続けることが難しい中、二匹になることで寂しさが軽減されるかもしれない、と言う可能性に賭けようと思った。そして、通っている動物病院の先生にも、そしてペットショップの店員さんにも、「この子は猫が好きだと思う」「どんな子が相手でも仲良くなれると思う」と言われたことが背中を押した。
ただし、深夜の家族会議でこの結論になった後、真夜中私のベッドに来てお腹を出して寝る天を見て「これだけ安心してくれている天にとって本当に良い決断なのか」が改めて不安になってしまい、早朝に夫との緊急家族会議が開かれたことを記しておく。
それくらい、私にとっては人生を賭けた決断だった。
ただし、我が家に迎えると決めてから名前をどうするかは割とすぐに決まった。「天」が漢字一文字で読み仮名が二文字だから、弟になる子も漢字一文字、読み仮名二文字がいいね、と話しながら、「春」にやってきたことも含めつつ、「天」と合わせると意味を成す名前を見つけた。
一人ずつではダメで、二人が一緒にいることで「驚くほど立派で見事な様」を体現できたらと言葉そのままの気持ちを込める。二匹の猫が見せる「見事な様」が具体どんなものかうまく言えないのだけれど、「素晴らしい」、「見事」という意味を表すってことなんだからポジティブなことは間違い無いでしょう。
名前は「晴」。
大きい猫は大歓迎の我が家だから、うんと大きくなってくれても大丈夫。たくさん食べて、たくさん眠って、健やかにいてくれたらと、天と同じ大きさのケージをもう一つ買った。大型猫用のキャットタワーと、大きなケージが二つ、我が家はもはや猫たちのものがメインになっている。でも、それが嬉しくもある。
たくさんの選択肢があったであろう晴を、こんなに早く我が家に迎え入れたのだから、最後の日まで愛し続けるのが使命である。天と晴、我が家にきてくれた二匹とも、丸っとごっそり、愛し尽くすのだ。
このブログは、その愛の記録としたい。
